ガラスの棺 第9話


アッシュフォード学園の地下。
かつて機密情報局のあったその場所には、一つの棺が安置されていた。
ロイドたちが来てすぐに外側を覆っていた木製の棺は取り壊され、今はもう一つの棺が表に出ている形だった。
それは透明なガラスでできた棺で、持ち上げてみて解った事だが棺の底の部分一面に何やら機械が取り付けられてた。空調を調節するもの、温度を調節するもの、様々なそれらの機械がこの状況を生み出したのだろう。
防腐処理が一切されていなかったルルーシュの遺体が腐ること無く当時の姿のままだったのは、この機械が原因だった。ロイドの話では、これに似た技術は以前からあったという。それは生きた人間を冬眠させる装置で、遺体を保存する目的では使用できないものだという。ルルーシュの棺には生命維持のための機能は見られず、一体どのような原理で5年もの間動いていたのかをロイドたちが熱心に調べている所だった。幸いここは元機密情報局、設備は十分とはいえないが、それでも代用できる程度のものはあった。装置が何かを解明し、長時間の移動にも耐えられるのか、この状態を維持するために必要な物はないか、分解できないため僅かな手がかりを探し出し調べ続けている。

5年前の姿のまま眠り続けるルルーシュは黒い服を着ていた。
死に装束と言えば白だが、白はあの鮮血を思い起こさせ縁起が悪いと、ジェレミアが用意した服を着せた。細部にわたり細かな装飾をされた黒の皇族服と、純白のスカーフには大きく美しいアメジストのスカーフ止めが輝いており、とてもこれが死に装束とは思えず、まるでこれから舞踏会にでも出かけるような出で立ちだった。
遺体に関してはノータッチだったスザクは、これを僕で通すつもりだったのか若干呆れてしまったが、彼が大事に扱われ埋葬されたことだけはよくわかった。
艶やかな黒髪も、白磁の肌も、その瞼を縁取る長い睫毛さえも当時のままで、透明な箱の中で眠っているようにしか見えなかった。

本来ならば、ゼロであるスザクはここを離れている時間だが、こうなった時点でゼロが無関係だと装うことをスザクは捨てていた。ルルーシュの遺体が朽ちているなら当初の予定通り事を進めたが、当時の姿のまま保存されている時点でそれは無理だと判断したのだ。もしこの状況が知られれば、周りがどう動くのか想像も出来ない。
何より、眠るルルーシュの側を離れがたく、今までのようにゼロとして生きる事は難しかった。それはカレンも同じなのだろう。彼女もまたここを動こうとはしなかった。
この短時間で、スザクとカレンは今の生活を、ゼロを捨てる覚悟をしていた。
それはミレイとリヴァルも同じで、あの日、あの時の後悔と喪失感、蚊帳の外に出され、舞台を見ているしかなかったあの絶望をもう二度と味わいたくなかった。
科学者たちも、もうあの場所には戻らな覚悟でここへ来ていた。

「う~ん、とりあえず今解っている事は、このガラスは超硬ガラス。鋼鉄並みの強度があるから、簡単には壊れないことと、この機械には純度の高いサクラダイトが使われている事かなぁ」

僕のランスロットにだってこんな高品質なサクラダイト、使ってないよ。

「純度の高い・・・?」
「だからね、普通のサクラダイトよりも効率よくエネルギーが使えるんだよ。この量だと、100年はこの状態を維持できるかもね」

それ以外の装置が耐えられるかは別として。

「ですがロイド先生。これだけの純度だと・・・」
「うん、危険だよね。上手く処置はされているし驚くほど安定してるけど、何かの拍子にこの装置が壊れて中のサクラダイトが漏れだしたら、爆発するだろうね」

おそらく99.9%以上の純度だろう。
中身が漏れ出さなくても、この安定が失われればどんな惨事が起きるか。

「爆発!?え?この棺が爆発するって事ですか!?」

予想外の内容に、リヴァルは思わず声をあげた。

「当然でしょ?不純物のないサクラダイトはそれだけ扱いが難しいから、普通は使わないんだよ」

純度が上がればエネルギー効率はそれだけ上がる。
今の技術では純度66.6%が安全ラインギリギリの数値だ。その流体サクラダイト1リットルで1,000のエネルギーを得られると仮定した場合、99.9%なら10倍の10,000は余裕で得られるだろう。そんな高純度を扱う馬鹿はいないからデータが非常に少なく、あくまでも仮定の話であって、実際にはもっと倍率は上がるのかもしれない。
ならば純度をあげ、より効率よくするべきだと思われるだろうが、サクラダイトはガソリンとは違い純度をあげるリスクが非常に高い。特に兵器であるKMFに高純度の物は使えない。使っても精々60%までだ。
そう、高純度のサクラダイトはただそこに存在するだけで、いつ起爆するかもわからない爆弾そのものといってもいい。それも恐ろしく威力の高い爆弾だ。

「普通、棺は乱暴に扱われる事はありませんからね。だからこそ高純度のものを使用しているのでしょうが・・・」

だが普通の遺体と違い、この中にいるのは悪逆皇帝。
暴徒が何も知らずに棺をこじ開け、万が一にも棺の底の装置を破壊したら。
棺を中心に最低でも半径50mは吹き飛ぶだろう。
いや、それ以上か。
そんなリスクの高い物質の計算など今までしていなかったから、机上の空論の域を出ないが、どの道ルルーシュの棺は爆弾並みに慎重に扱う必要が出てきたのだ。

「といっても、そこまで慎重にしなくてもいいよ。言ったでしょ?このガラスは超硬ガラス。鋼鉄並みの強度を誇っている。銃弾程度では破壊する事も出来ないよ」

この技術だって凄い物だ。
防弾ガラスや防犯ガラスに使われるような強化ガラスなど非では無い。
難易度の高い精製を行う事で生み出せる特殊ガラスで、ロイドが知る限りこれほど大きなものを作る技術は確立されていないはずだった。なにせこのガラスはまだ科学者たちが研究を重ねている段階のもの。
そうでなければすぐにでもランスロットの部品に使っていただろう。
その特殊ガラスで棺を作り出せる技術者がいたとは驚きだった。
一般人や、酔狂な人間がルルーシュの遺体を保存したいからといって出来るものではない。分解できないから詳しくは解らないが、この装置も相当な技術の結晶だ。
ガラス、流体サクラダイト、装置、どれもこれも現在発表されている技術以上の代物。普通に考えるなら、現在の科学では実現不可能な技術の結晶。
ロイドでもセシルでも、ラクシャータでもない。
黒の騎士団も超合衆国も関係していない。
もちろん、ブリタニアもだ。
なぜなら、ルルーシュの遺体があの墓石の下に安置される前までこんなガラスの棺は存在しておらず、遺体をスザクの墓に埋めた事を知るのはゼロレクイエムの関係者と、ギアスをかけている者たちだけだから。
遺体の所在を知り、尚且つこれだけの事を秘密裏にできたもの・・・。

「スザク君、陛下の移動は準備が出来次第でいいのかな?」
「え?は、はい」
「じゃあ遅くても10日以内には移動するからね」
「そんなに早く!?」

ミレイはもう連れていくんですかと驚きの声をあげた。

「陛下をこの装置に入れた人物が誰か解らない以上、出来るだけ安全で、すぐに移動できるような場所に移した方がいいとおもうよ」

発信器の類がある可能性も否定できないが、ここよりは安全になるはずだ。
とはいえまず足を用意する必要がある。
このまま車で移動するにしても、どこに移動するか考えなければ。
なぜならここは島国日本なのだから。
国外に出すのであれば、相応の準備が必要だ。

「私も行きます」

カレンは立ち上ると、ロイドに言った。

「私も!」
「俺も行きます!」

ミレイとリヴァルも声をあげた。

「気持ちは嬉しいけど、今は一緒に行くべきではないと思うよ?特にカレン君は黒の騎士団の動きを誰よりも見れる場所に居るんだからね」

つまり、黒の騎士団の動向を見張れと言う事か。

「スザク君はブリタニアを見ていた方がいい」
「でも、僕は!」
「もう、僕たちの答えは出ているんだよ?だから、今は一時陛下のお傍を離れて、世界がどう動くかを見た方がいい。ここに来るのはそれからでも遅くは無いはずだ」

君を置いていく話じゃないんだから。
超合衆国が、ブリタニアが、カグヤが、ナナリーが、そして世間が。
どう動くかをまず見る。 何事もなければそれでいいが、王家の墓が荒らされてから各所で不穏な動きが目についた。それらをまずは確かめるべきだろう。
すぐに移動したいところだが、場合によってはここから当分動けなくなるかもしれない。それを判断するためも情報が必要だ。

「・・・解りました。ロイドさん、セシルさん、ニーナ。ルルーシュをお願いします」

駄々をこねるのをやめて頭を下げたスザクに、それでいいんだよとロイドは笑った。

***

棺保存ネタ亡国っでやっていることを今日知る。
公式とネタかぶりとか・・・この話の更新やめようか本気で悩み中。
2016/10/15

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